
館内に足を踏み入れたときからほのかに香る温泉の香り。まだ見ぬ「紀州三良泉」への期待に胸を高鳴らせつつ、B1F大浴場へと歩を進める。風情漂うのれんをくぐり、ドアを開ける。と、視界を覆う湯煙。その迫力に翻弄されながらも、数々の入浴者の肌を潤してきたという「みなべ温泉」に体をあずける。大きく開かれた窓からは、近海からはるか水平線を望む大パノラマが映しだされている。良質な重曹泉の効能か、あまりの絶景を目の当たりにした驚きゆえの妄想なのか。ふいに正面玄関前に建てられた石碑の詩を思い出した。
「みなべの浦 潮な満そね 鹿島なる
釣りする海人を 見てかへりこむ」
約一千年前、万葉集に詠われたものである。はるか万葉の昔にこの地を訪れた詩人も、壮大なこの景観に心を奪われたに違いない。そして私も…。
ときの経過も忘れ、すっかり長湯をしてしまいましたが、あまりお勧めはできません。なにしろ、付近の散策に出かける力をなくしてしまうのですから。今夜みる、よき夢とひきかえに。 |